生きている不思議
死んでいく不思議
花も風も街もみんなおなじ
トンネルのむこうは
不思議の町だった。
ありえない場所があった。
ありえないことが起こった。
人間の世界のすぐ脇にありながら、
人間の目には決して見えない世界。
土地神や様々な下級神、
半妖怪やお化けたち。
そこは、古くからこの国に棲む霊々が
病気と傷を癒しに通う温泉町だった。
10歳の少女千尋の迷い込んだのは、
そんな人間が入ってはいけない世界。
この町で千尋が生き延びる条件はただふたつ。
町の中心を占める巨大な湯屋を支配する
湯婆婆という強欲な魔女のもとで働くことと
名前を奪われて、人間世界の者で無くなることだった。
千尋は名前を奪われ、「千」という名で働くことになる。
人生経験豊かなボイラー焚きの釜爺、
先輩のリン、謎の美少年ハクに励まされて、
千尋は懸命に、そして生き生きと働く。
眠っていた千尋の「生きる力」が
しだいに呼び醒まされてゆく。
生きている実感とはこういうものか。
それは千尋にとってはじめての感覚だった。
湯屋に現れた仮面の男カオナシ。
「さみしい、さみしい」
カオナシは他人と交流できない男。
「欲しい、欲しい、千、欲しい」
金をばら撒き、思い通りにする男。
「食べたい、食べたい、千、食べたい」
上手くいかないと暴れる乱暴な男。
ひたむきで一所懸命な千尋の存在がカオナシを変える。
健気で一途な千尋がカオナシの魂を解放に導く。
一方、湯婆婆の姉・銭婆の為に傷ついたハク。
己の危険を顧みず、
千尋は敢然とハクを救う唯一の方法に挑む。
それは「他人のために何かをすること」。
与えられるのではなく、与えることを
千尋は生まれて初めて知る。
はじまりの朝 静かな窓
ゼロになるからだ 充たされてゆけ