もの静かな品よくくすんだ感じの老婦人と、その娘で、新しい世代に生き、もっと現実的な生き方を望みながら、自己の中に潜む母と同様なロマネスクな気持に苦しめられ出すような一人の若い女を描こうと思った――七年の歳月をかけて成った「菜穂子」には、作者の生への意志が秘められている。ほかに、その前編ともいうべき「楡の家」、人間の孤独をテーマとした「ふるさとびと」を併録。