文档:吉卜力日志/2000年6月

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 5月 2000年6月 7月
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2000年6月
2000年6月
6月1日(木)
 「6月1日までくれればなんとかなる」との言葉を実行すべく、作画稲村氏が、明け方まで残って作監終了。稲村氏は今回演出も兼ねているためまだまだ気を抜けないが、動画以降はこれからが追い込みなので、あともう一息がんばってほしい。

 「紅の豚」のころジブリ新社屋建ててくれた某会社が倒産したとのニュースが入ってくる。宮崎監督や総務石迫さんらも、顔見知りの人が多いので心配そうにしている。
6月2日(金)
 美術館作品二班ともに、明日の差し替えに向けてラッシュを行う。今回の差し替え分は効果さんに渡すため、二班とも夕方ぎりぎりまで撮影アップを待ってラッシュをおこなった。

 男鹿さんから「千」の背景がいくつか上がってくる。あいかわらず素晴らしい上がりにスタッフ一同溜息。
6月3日(土)
 稲城さんが美術館作品の音楽撮りのためにチェコに出発。経費も時間も無いのでまたしても三泊四日の強行軍。

 制作神村氏が今年の新人達に講義を行う。「『速い安い上手い』をモットーに精進するように」と話したとか。

 神村氏が演助高橋氏を連れて、美術館作品の効果予備打ち合わせにサウンドリングへ向かう。これは効果用にこちらで用意した約35CUTの線撮り素材に多少問題があり、音が入れづらい、との苦情があったため行われたもの。ところで、行く途中道に迷った神村氏が近くにいた警官に住所を提示して「わかります?」と聞いたところ「この辺だから自分で探して」と無視されたという。ああ・・・。
6月5日(月)
 ジブリ内で4人が参加している減量作戦、今月がその最終月。制作神村氏も今月に入ってから日課にしている寝る直前の夜食をやめてラストスパート。しかし、急に無理をした為、今日は朝から腹の調子が悪い。しかも、夕方には空腹の為、手足のしびれと冷や汗が・・・。たまらず、近くのコンビニに、同じ様にダイエットしている渡辺氏とこんにゃくゼリーを買出しに。しかし売っていなかった為、10秒チャージの××ゼリーを購入。ここで大きな落とし穴が。見た目にもおいしそうなシュークリームがチラリと視界に…。渡辺氏と一緒に取り合えず買う。はたして、このダイエット作戦成功するのか。最終日まで後25日。
6月6日(火)
 稲城さんがチェコから無事帰国。そのままマルチに入れてきた音をハードディスクに移し替えるためスタジオに直行。と思ったら機械がトラブってほとんど寝ていないのに夜中の二時過ぎまで作業。

 制作部高橋、田中、神村、居村氏で「少女漫画とは」と話しをしていたら、片塰氏、一村氏が偶然そこを通りかかり白熱した議論に発展する。

 急遽明後日から奥井さんが二泊三日でロスアンゼルスに行くことになり、航空券を取ろうと近ツリに電話するも、帰りの飛行機がなかなか取れずてんてこ舞い。
6月7日(水)
 今週頭より研修生が、アニメの名作をビデオで見る会を開始。最近ではあまり見る機会のない「バッタ君町へ行く」や、「雪の女王」、トルンカの人形アニメなどを中心に、夕食の時間を使って行われている。手間を惜しまず作られた作品が、新人達にいい刺激になるとよいのだが。
6月8日(木)
 明日のアフレコのため、神村、古城両氏が試写室真ん中付近のイスを取り外し機械をセッティング。まるで本物の録音スタジオのようと関係者も感嘆。音響監督の林さん等も入り、準備完了。

 美術館作品の効果音打ち合わせが行われる。
6月9日(金)
 試写室にて美術館作品のアフレコが行われる。芳尾班子役の女の子は、初めてのアフレコで少し緊張はしていた物の、しっかりした受け答えで役を演じた。お昼を過ぎたため休憩を挟もうかというスタッフの問いにも、「続けてやります」との頼もしい答えでスタッフも感心することしきり。ただここは、急ごしらえの録音スタジオの為、同じ空間に演技者とスタッフが同居する際どい設定。案の定様子を見に来た宮崎監督は入り口に本番中のランプが点灯しているにもかかわらず「映写室の窓から覗いたら大丈夫そうだったから」と、いきなり試写室に入り込み録音がNGになる場面も。
6月10日(土)
 稲村班のアフレコ&歌の収録が行われる。小学校低学年の子供たちが10人も集まったためスタジオ内は収拾のつかない大騒ぎとなる。子供パワーに押されスタッフ達ははんばあきらめ状態。パパになったばかりの居村氏は、将来を想像しげんなりしたのが、顔で笑って目が死んで状態だった。

 7時半より企画検討会が行われる。今回は5人のスタッフが共同で提案者となり、イメージボード等も用意した力のこもったものとなる。時間が足りなかったので、もう一寸練り直し、次回も同じ企画で行うことに。
6月12日(月)
 美術館作品稲村班のセリフあわせを試写室にて行う。音楽は前日の日曜日、2時までかかって5.1チャンネルのトラックダウンまでが終了。

 土曜日に宮崎さんが「これは面白そうなんだがまだ読んでいない」と制作部で話していた、「気温の周期と人間の歴史」上下巻を、湯島にある出版社まで買いに行く。面白いんだか、あやしいんだか・・・。
6月13日(火)
 美術館作品の音響作業が試写室で続いているが、今日は作業が深夜まで及んだため、林さん、某副社長等音響スタッフ三人に、ジブリが近くに借りているアパートに泊ってもらうことに。さー、早く寝て明日に備えよう、と思ったら、そこにはなぜか一升瓶が・・・。結局寝入ったのは朝方だったとか。
6月14日(水)
 昨日美術館作品芳尾班のセリフ合わせが行われたが、それに合わせて、特別に声優初挑戦のムゼオ盛田氏が、アフレコに再チャレンジ。前回アフレコ時、音響監督からだめだしを受け、家族にも自慢げに話してしまったため、失敗は許されない。あがってしまって声がうわずるのを押さえるため、ビールを一杯引っかけて来たのが運の尽き。それを聞いた宮崎監督はおもしろがり、さらにお酒を飲ませてしまった。ほろ酔い加減の声が使われたかどうかは、音響作業終了までのおたのしみとなっている。

 音響作業中、デジタルミキシングコンソールが突然大暴走。画面上のメーターが何もしていないのに行ったり来たり勝手に動きだした。「見えないお友達の仕業か!」と試写室は騒然となる。
6月15日(木)
 沖縄サミット絡みで各国の記者が貸し切りバスに乗って集団で取材に来る。鈴木さん西岡さん等が対応に当たっていたが、ジブリについてここには書けないことを根掘り葉掘り聞かれていた。

 美術館作品稲村班の音響作業は、昨日の遅れを取り戻すため、別の機械を導入し行うこととなる。先に仕込んでいた効果音を各チャンネルに仕込みながら、音のレベルを調整。急ごしらえと言うこともあり、音の移動は、ミキサーに付属のマウスで画面に合わせながら操作するという離れ業。音響作業の際には必ずと言っていいほどマシントラブルがついてまわるものである。
6月16日(金)
 美術館作品稲村班の音響作業は今日でプリミックスが終了。稲村、宮崎立ち会いのもと、チェックを行う。宮崎監督は「なかなか良いでき」とご満悦。ちなみに鈴木さんは「せっかく制作の野中くんに声を当ててもらったのに、加工したら誰だかわかん。これなら野中くんで無くてもよかった」とつれない一言。
 夜、宮崎監督から、稲村作品のエンドクレジットを手書きの寄せ書き風にしないかとの提案がある。抵抗する制作居村氏を押しに押し、演出稲村氏も味方に付けこれを了承させる。しかも最後まで抵抗した古城氏に対しては、ヘッドロックの型をみせ、実力行使でこれを撃破。宮崎監督は「絶対いいって、寄せ書き」とにやり。かつて「となりの山田くん」の際、冗談めかして制作で話し合っていたことが、まさか現実になろうとは・・・。
6月17日(土)
 美術館作品稲村班、東京テレビセンターにてファイナルミックスを行う。しかし試写室で使ったハードディスクの一部の調子が悪く、制作野中氏の声は明日作業することに。結局この日は夜中まで作業が終わらず、演出稲村氏は制作神村氏の車で帰宅。稲村氏は、はじめてのスタジオ作業のため緊張したのか、帰りの車中で酔ってしまい、ふらふらしながら帰って行った。本人は「ずっと机に向かって仕事していたので、久しぶりの車で酔ったのかなあ」と気を使って言っていたが、古城氏に言わせると「神村さんの運転が荒いんじゃないの」とのこと。
6月18日(日)
 今日もテレセンでファイナルの作業。順調に進み、夜の9時頃に無事終了。動画以降はまだ作業中とはいえ、音響が一段落するとようやく完成が射程に入る気がする。
6月19日(月)
 先週の宮崎監督の強行採決によって、手書き寄せ書き風でいくことになった稲村班作品のエンドクレジット。出演した子供達に自分の名前を書いてもらおうと、各児童劇団に動画用紙など一式を送る。これで名前を集める手配も整った。しかし、いざ集めた名前をどう組んだらよいものか、前代未聞の試みに制作居村氏は頭を抱えている。宮崎監督に指令を浴びせられ、やり直すこと3回。本来ならば、これで決定させないと間に合わない。しかし、居村氏の苦悩の日々はまだ終わりそうにない。
6月20日(火)
 美術館作品芳尾班の音楽トラックダウンを行う。一度通しで見たところ、宮崎監督の勅令により、一部手を加えることに。音響スタッフは、またもや深夜までの作業に突入。作業場となっている試写室は、いまや音響スタッフの怨念が充満しているという。

 一方、美術館作品稲村班の仕上げ上がりが、一気に5カット上がる。これで133カット中、仕上げ作業中が1カット、動画作業中が2カット、動検中が1カットとなるまでにこぎつけた。当然この後、撮影や、リテークの処理はあるものの、だいぶ見通しが明るくなった。
6月21日(水)
 空いてる時間を利用してせっせと紙タップ作り。早く自動紙タップ製造機が出来ないものか・・・。

 寄せ書き風に作ろうと進めていた美術館作品稲村班のクレジットは、なかなか手強い。手書きの名前をどう組み合わせるかが決まらず、苦闘していた居村氏の作業に業を煮やした宮崎監督がついに登場。居村氏から作業を奪い、自らいろいろ組み合わせてみたもののあえなく玉砕する。結局、手書きという点だけ活かして名前を羅列することに落ち着く。昨日、見通しが明るくなったと書いた矢先なのに、意外なところに壁はあるものだ。
6月22日(木)
 先週から居村氏の悩みの種となっている美術館作品稲村班のクレジットに新たな動きが。今度は鈴木プロデューサーから注文が出る。プロデューサー令の発動に、制作高橋氏は即座に居村氏を呼び、決定経路その他について1時間ほどお小言。「今後は自分や鈴木氏にもよく相談するように」とお灸をすえる。居村氏は「ほんとに最後の最後に必ず何かあるなあ…」と肩を落としていた。

 第三スタジオの正面の壁塗り作業がいよいよ本塗り段階に入る。レリーフ状に土を盛って木や鳥の絵を描く作業に、見物人がちらほら。宮崎監督も「端の方にちょこっとでいいから、やらせてくれないかなあ」と大いに興味を示していた。
6月23日(金)
 美術館作品芳尾班の動画作業も大詰めをむかえている。作監、動検が、今後の動画の割り振りについて協議。ここを間違えると動画アップに間に合わなくなるため、小声でひそひそながらも真剣な討議が続く。

 梅雨らしい天気に戻ったのをねらったかのように、1スタ2階の天窓が、開けっ放しのまま閉まらなくなり下の机が水浸しとなる。制作は大慌てとなったが、窓の開閉スイッチをいくら押してもうんともすんとも言わない。こうなったら最後の手段ということで、勇敢な特殊工作員が屋上から無理矢理人力で閉め、テープで固定し、どうにか切り抜ける。幸い、水浸しの机は使われておらず、たまたまおいてあった大判フレームのおかげでレイアウト類にも被害が及ばなかった。この天窓、一ヶ月ほど壊れっぱなしだったのだが、それが祟ったか。早いところなんとかしないと不便な上に、テープ止めはちょっとみすぼらしい。

 美術館作品稲村班がついに動画アップ。ようやくここまで辿り着いたか、とこれまでの長い日々が甦って感傷に浸りそうになるが、そうはいかない。次は芳尾班の動画アップが迫っている。賽の河原もいつか積み上がるのだ、と気を引き締め直す。

 夜9時過ぎに、QARのそばで歓声と拍手が沸き起こる。何事かと思い見てみると、美術館作品稲村班の最後の動画が終わったという事。お疲れ様でした。しかし再び半袖を着る季節になろうとは・・・。月曜からは、早速芳尾の動画に入ってもらおう。制作は、鬼です!

 11時頃、監督から上がっている分だけ、と絵コンテを受け取る。カット番号を見るとなんとNO2001、おお、3時間の超大作として早くも絵コンテ完成か、と思ったら「BパートとCパートの間に挿入するんだが、カット番号がややこしくなりそうなので」と宮崎監督。Cパートはその後ろから続きのカット番号できちんと続いていた。びっくりしたー。
6月26日(月)
 美術館作品芳尾班のダビングが始まる。今日はセリフ合わせが中心だが、お母さん役の徳間インターナショナル・森吉さんの再アフレコも行われる。「本当の母親のようないらだちの感情が出ていて、ちょっと怖いぐらい」と宮崎監督も満足の様子。セリフ合わせも夕方にはOKが出て、本日の作業は終了。やはり修羅場になりそうなのは、水曜日から始まる効果音のほうか。またまた徹夜続きが予想され、向かいのアパートでは夜な夜な宴会が繰り広げられるかも。

 「千と千尋の神隠し」Bパート前半の美術打ち合わせ。炎の処理やそれに伴う画面の明滅など、やっかいな処理が多く前途多難。
6月27日(火)
 美術館作品2班が、ラッシュ上映を行う。芳尾班は今週末のファイナルダビングに向けて、キネコ出し、フィルム出しを行う。夕方にライカリールの差し替えを行ったものの、未だに仕上げアップまでに至ってないカットが10カット以上ある。やはり効果のダビング作業は修羅場となるのか、トホホ。

 ジブリ講演会のため、塩野七生さんが来社。講演会は、試写室がダビング機材を設置しているため使えず、二馬力にて行われた。60人ほどの参加者を前に、塩野さんはその作家歴からはじまり、歴史、宗教、芸術、政治、ファッションとあらゆる分野にまたがって、ユーモアと含蓄のある話をたっぷりと語って下さった。「芸術は矛盾から生まれる。矛盾を使いこなすのが芸術家」などの言葉に、宮崎監督のことを思い浮かべたのは私だけだろうか。
6月28日(水)
 宮崎監督、鈴木プロデューサーをはじめ、各部署メインスタッフが集まって、「千と千尋の神隠し」の現状を再認識するための巨頭会談が開かれる。救出された捕虜のように、会談から疲れ果てて戻ってきた神村氏。その憔悴しきった顔が、制作状況のシビアさを如実に物語っていた。

 美術館作品芳尾班の効果ダビング作業を行う。この作品のポイントはやはり犬の声。これまでに録りためた犬の声など、様々な素材を駆使して音を作っていく。中でも犬のあくびに大いに手を焼いた。ついには試写室に集まったスタッフのあくびをアフレコするという、端から見るとちょっと異様な作業が行われる。みごとあくびが採用されたのは録音監督の林氏。なんとこれに猫のあくびを混ぜて、犬のあくびを完成させた。
6月29日(木)
 音響稲城氏20と十数回目の誕生日に、作画の女性達からプレゼントが渡される。ここではちょっと書けないような強烈な代物に、稲城氏は「これってセクハラだよね」と素直に喜べない様子。日頃の稲城氏のオヤジな態度からすれば、こういうジョークも出て当然、と周囲は納得していたのだが。

 インターネット・ホームページのiモード化にかこつけて、制作の携帯電話をiモード対応に機種交換する。これで田中氏が制作中のiモード版HPを確認する度に、渡辺さんの携帯が使われることもなくなるであろう。

 来年度の新人募集がもうすぐ発表になるが、来年度は制作部でも新人を募集することになっている。制作部では4月に新人を募集したことがないため、どんな人が応募してくれるのか、神村氏以下制作部はいまからそわそわ。

 米林氏の第三回の作画打ち合わせが行われる。

 制作神村氏が作監安藤氏とともに外部の原画マンに仕事の依頼に向かう。今のところ原画マンの数が圧倒的に少ないので何とかお願いしたいところ。
6月30日(金)
 あちこちで修羅場をむかえているスタジオに、高畑監督からのサクランボの差し入れ。ありがたく頬張りつつ、そうか「さくらんぼの実る頃」も過ぎたのか、と時の流れの速さを呪う。

 一方、北海道出身の作画・山田氏からはカニが配られる。スタジオのいたるところでカニの匂いが充満し、食事時までガマンできなくなった何人かがカニの身をほじくり出していた。