文档:龙猫 萤火虫之墓 宣传手册/20
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特別収録3 アニメ恐るべし |
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「ちょつと冒険するような感じで」監督におまかせすることにしたという 映画化への思い。公開の前年、『小説新潮』に寄稿された特別エッセイ。 |
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野坂昭如 |
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ぼくの小説の中で、これはどうやら男性より、女性の方が読んで下さっているらしい「火垂るの墓」(新潮文庫)が、アニメーション映画となる。 これまで、この小説映画化の話は何度かあって、いちばん具体的だったのが、去年(昭和六十一年)亡ったKKベストセラーズ社長岩瀬順三の企画。「火垂るの墓」の時代は、昭和二十年初夏から、夏の終わり、即ち敗戦直後まで。舞台は焼跡と、蛍の乱舞する池や川や野っ原、人物といえば、痩せこけた少年と幼女、及び殺気立ち、かつ飢え、さらに家財産すべて失ったか、失う予感に怯える大人。なによりかより、本土決戦つまり民族滅亡を目前にして、ヤケクソとばかりもいえない、奇妙な明るさに充ちていた、あの年の夏を、どうやって映像にするのか。 小説の映画化に当たって、ぼくはこれまでいっさい注文をつけたことがない、両者は別物であり、いかに換骨奪胎されようが知ったこっちゃないと考えているが、「火垂るの墓」だけには、原作者としてのこだわりがあった。 この小説は、ぼく自身の体験と、かなり重なっている。以前にも書いたが、ぼくは、作中の少年ほど、妹にやさしくはなかったし、いかに小説とはいえ、周辺の大人たちを、ずい分悪く書いているのだ。いわば、お涙頂戴式のおもむきがあって、申し訳ないというだけではすまない、といって罪の意識と大袈裟なものでもない。もし、かわいそうな戦争の犠牲者の物語に仕立て上げられたら、なおぼく自身、いたたまれないし、また、映画化といっても、焼跡をどう再現するのか、飢えた人間の表情は、メーキャップによっては、作り得ぬ。さらに小説では触れていないが、さだめとして、一億玉砕を、覚悟したのでも、受け入れたのでもない、明日をも知れぬ日々を、漂い流れつつ、妙にあっけらかんとしていた、あの時代をまるごと、描いてもらいたい気持も強い。つまり、映画化は不可能ということだ。 アメリカはテキサス州、ハリンジェンに、フライングミュゼアムというシロモノがあり、主に第二次大戦において活躍した各国の軍用機を集め、そのすべて、今も飛行可能。日本機は零戦のレプリカだけだが、ここにただ一機B29が生き残っている。原爆投下ショウなどを演じ、問題になったりするヤツだ。 岩瀬は、これを実際に飛ばせ、アリゾナの砂漠に、焼けるまでの神戸の町を、大規模に再現、実際に焼夷弾の雨を降らせよう、出演者には断食させてと、途方もないことを考え、ぼくは、他誌の取材も兼ね、テキサスまで出かけ、B29に搭乗もした。 夢物語のまま、岩瀬は死んでしまった。 そしてアニメーションの話がとびこんできた。ぼくは応じた。監督の高畑勲氏と何度かしゃべり、小説に描かれている場所を、スタッフと一緒に歩き、その、ラフスケッチとでもいうのか、イメージを確かめ、ぼく自身、ちょっと冒険をするような感じで、おまかせすることにした。 四十二年前と現在と、当然、風景は大違いだし、いわゆるアニメの手法で、飢えた子供の表情を、描き得るものかと、危惧していたのだが、これはまったくぼくの無知のしるし、スケッチをみて、本当におどろいた。葉末の一つ一つに、蛍の群がっていた、せせらぎをおおいつくす草むらの姿が、奇蹟の如く、えがかれている、ぼくの舌ったらずな説明を、描き手、監督の想像力が正しく補って、ただ呆然とするばかりであった。 スタッフを案内したのは、ぼくが、二ヶ月余り過した場所、小説の舞台と重なり合う家並み、道筋から、少し離れたところ。どうせ以前とはまるで変わっているのだからと自分に弁解しつつ、実をいうと、今でもそこへ近づくのが怖い、ぼくにとって、犯罪現場といっていい。ところが、シャーロック・ホームズの如く、スタッフは、見たはずのない「火垂るの墓」、いや、ぼくの過した時間と空間を、正確につかんでしまったらしい。 おかげで、吹っ切れたような気持もする。 「火垂るの墓」を書いた自分にこだわって、いわば、自らを写し出す鏡から、眼をそむけつづけてきたのだ。ラフスケッチの一枚からひき出されてきたぼくの過去と、今は、少し正直に向き合っている。 しみじみアニメ恐るべし。 |
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