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幽灵公主 制作日志 目录 
 「ツール・ド・信州」レポート 「交響組曲 もののけ姫」Recording in PRAHA 音響・音楽制作室 稲城さんのチェコ日記 「もののけ姫」ビデオ発売キャンペーン 川端さんレポートより
「交響組曲 もののけ姫」Recording in PRAHA
1998年7月8日発売
「交響組曲 もののけ姫」
作曲・編曲・演奏・プロデュース:久石譲
マリオ・クレメンス指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
収録ホール:芸術家の家(ドヴォルザーク・ホール/プラハ1998年6月録音)
曲目
1.第一章アシタカせっ記(5:46)
 ※注「せっ記」の「せっ」は造語のため表示できません。
2.第二章TA・TA・RI・GAMI(6:42)
3.第三章旅立ち~西へ~(4:56)
4.第四章もののけ姫(4:41)※ピアノ:久石譲
5.第五章シシ神の森(6:08)
6.第六章レクイエム~呪われた力~(7:08)
7.第七章黄泉の世界~生と死のアダージョ~(7:18)
8.第八章アシタカとサン(4:27)※ピアノ:久石譲
TOTAL TIME(47:23)
発売:徳間ジャパンコミュニケーションズ
TKCA-71395
定価:3,059円(税込)2,913円(税抜)
このアルバムについて
昨年公開した映画「もののけ姫」の記録的な大ヒットと共に1997年7月に発売したサウンドトラックアルバムも約50万枚(1998年6月現在)のセールスと今もなお売れ続けています。サウンドトラックは本編の尺と曲順をそのままCDに落し込んだもので、映画をご覧になった方から、これを聴くと「映像シーンが浮かんで来て素晴しい」と言うご感想も多数頂きましたが、反面一曲のタイムが短い為、「もっと続きを聴きたい」と言うご要望も多数戴きました。
そこで、ご要望にお答えするべく、「もののけ姫」アルバム第3弾として昨年9月から企画が持ち上がり、同時に完成度の高いサウンドトラック以上のアルバムを創らなければならないとスタッフ一同使命感にかられていました。
結果、音楽プロデューサーの久石譲さんから「これから世界へ翔こうとしているもののけ姫をスラヴ色の強い一流のオーケストラでやってみよう。宮崎監督の持っている空気感のようなものと東欧のそれは、相通じるのではないか。」という提案があり、ヨーロッパ各地のオケをピックアップ。幾度となく打ち合わせを重ねた中、最終的に東欧の名門チェコ・フィルハーモニー管弦楽団に決定し、制作がスタートしました。
アルバムの内容も映画の構成を重視し、メインテーマとポイントの場面音楽をピックアップし、全8曲の組曲構成にしました。
ここでレコーディングにした、チェコと収録ホールについて少し触れてみましょう。
チェコ共和国(資料:1)(写真:1)は、ヨーロッパの中東部に位置する内陸の国。
大きくは、西部のボヘミア地方と東部のモラビア地方に分かれています。そのボヘミア地方にある首都プラハで今回のレコーディングは行われました。
プラハは、スメタナやドヴォルザークを生み、モーツァルトもゆかりの深い東欧屈指の音楽の都。街角では音楽家がヴァイオリンを弾き、毎日どこかでコンサートが開かれていてプラハの街は常に音楽で溢れています。1946年以来、毎年、この街を舞台に「プラハの春音楽祭」(5月12日~6月1日)が行われています。その初日は、プラハをこよなく愛したチェコ出身の作曲家スメタナの命日である5月12日。開幕曲は、スメタナの交響詩『わが祖国』で今年もウラディミール・ヴァーレク指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏により幕を開け、世界中のクラシックファンを魅了しました。その「プラハの春音楽祭」開幕を飾ったチェコ・フィルハーモニー管弦楽団(資料:2)が今回「もののけ姫」を演奏してくれました。日本生まれの「もののけ姫」をヨーロッパの演奏家たちがどのように表現してくれるのか、とても楽しみでした。
また、録音はヴルタヴァ川の辺りに建つ、クラシック音楽の殿堂「芸術家の家 Rudolfinum ドヴォルザークホール」(写真:2)で収録しました。この建物は、19世紀後半に建設され、ネオ・ルネッサンス様式による代表的建築として知られています。
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写真1
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写真2
(資料:1)
◆チェコ共和国 Ceska Republika(1997年12月現在)
首都:プラハ Praha
面積:約7万9000平方キロメートル(日本の約5分の1)
人種:チェコ人がほとんど。その他スロバキア人など。
人口:約1036万人
公用語:チェコ語。外国語としてはドイツ語と英語が使われる。
宗教:カトリック
通貨:単位はチェココルナ。補助通貨は、ハレル。
時差:日本より8時間遅れ。サマータイムは、7時間遅れ。
(資料:2)
◆チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 Czech Philharmonic Orchestra
1896年ドヴォルザークの指揮で最初のコンサートを行い、既に結成100年を超えるというまさにヨーロッパを代表する名門のオーケストラ。
その第1回の指揮台に立ったドヴォルザークは新世界交響曲をはじめあらゆる分野で名曲を残した大作曲家ですが、その後もこのオーケストラにはマーラーやR.シュトラウスといった歴史的にも著名な音楽家が指揮台にのぼっている。
1997年1月の音楽監督ゲルト・アルブレヒトの辞任後、現在では音響監督ウラディミール・アシュケナージ、常任客演指揮者に小林研一郎、正指揮者にウラディミール・ヴァーレク、客演指揮者にSir.チャールズ・マッケラスがそれぞれ就任し、この4人体制で数多くの演奏活動を繰り広げている。
また、日本にも多くのファンをもち、1995年以来毎年来日を重ねている。
第一日目 1998年6月5日(金)
11:00成田空港
スコアのびっしり詰まったトランクと共にマネージャーの森本さんと久石譲さんが来た。
これから、期待と不安が入り交じりながら「交響組曲 もののけ姫」レコーディングへのためプラハへと旅立つ。今回のレコーディングは、音楽家久石譲さん、マネージャーの森本さん、発売レコード会社徳間ジャパンコミュニケーションズの山本さんそして私スタジオジブリ稲城の以上4名が同行し た。
13:00発JL407便にてフランクフルトへ約12時間の空の旅。6月の東欧は平均気温16℃位と聞いていたが、着いた途端猛暑(33℃)で湿気もかなりある。
19:15発OK539便に乗り継いでプラハへ。(約1時間)
やはり、暑い!長袖しか持ってこなかったのでちょっと暑苦しい。
ゲートを出ると元チェコ大使のご子息ズデニヤク・ハドリチカさんが迎えてくれた。
彼はお相撲さんのような体格でだいの親日家。日本語がめちゃくちゃうまく、しかも柔道2段。びっくり!
ホテル到着後、今回のレコーディングをコーディネイトしてくれたエンジニアの江崎さんとアシスタントの福田さん、村松さんと合流し、スケジュールの打ち合わせをする。
江崎さんは、元チェコ・フィルでトランペットを吹いていた演奏家で今はエンジニア&レコーディングディレクターとして年に15回位チェコに来ているそうだ。また、チェコの良さを多くの人に知っていただこうと音楽のみならずいろいろな普及活動も行っている人。
チェコが初めての我々にとって何とも頼もしいかぎりだ。
初日の打ち合わせも終わり、出発から約20時間長い一日が終わる。
第二日目 1998年6月6日(土)
今日も猛暑。たまらず、朝一番Tシャツを購入。
11:00より市民会館内にあるスメタナホールにて、久石さんのピアノリハーサルが始まった。
市民会館内は、観光客の見学ルートにもなっていて、土曜日ということもあり少々周りが騒がしいが、スメタナホール(写真:3、4)は、この日貸切なので、リハーサルは、とても良好。このホールは、前説で述べた通り今年5月12日より行われた『プラハの春音楽祭』のオープニングを飾った場所。もちろんオケはチェコフィル。
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写真3
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写真4 この模様をほんの3週間前衛星生中継で観ていた私は、実際その場に立つと少々身震いと感動を覚えた。 そして、リハーサルとはいえ、その同じステージで久石さんが、ピアノを弾いているのを見ると、またまた感動。 ソロピアノだが、ホールの響きときたら日本のホールでは、絶対に味わえない音質。凄すぎる! 夕方、実際収録する芸術家の家内ドヴォルザーク・ホール(写真:5、6、7)を下見する。 リハーサルをしたスメタナホールは縦長だったが、こちらはややドーム型に近いホール。 収容人員は、バルコニー含め約1200~1300名位だろうか?天井が高く、共鳴度、音場感が広がるすばらしいホール。
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写真5
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写真6
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写真7 また、ステージの真下にコントロールルーム(写真:8)と編集ルーム(写真:9)があり、モニターを見ながらダイレクトに録音できる画期的なホールだ。 今回のレコーディングもホールの特性を生かした2chダイレクト録音で行われる。 早く、オケの演奏を聴きたい。
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写真8
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写真9
第三日目 1998年6月7日(日)
いよいよ、レコーディング初日。
しかし、ここでちょっとしたアクシデント。指揮者のマリオ・クレメンス(資料:3)さんがワルシャワでの仕事が長引いているため、プラハ到着が夜になるという連絡が入った。
よって、第一セッションは21:00から開始になった。
思わぬスケジュール変更により、急遽ドヴォルザーク・ホールでピアノリハーサルを行った。
15:00ドイツからアシスタントの伊藤さん到着。
19:00マリオ・クレメンスさん到着。
ドヴォルザーク・ホールのエンジニア、ノバチェックさん含め、これで全スタッフが揃った。
久石さんと対面後、レコーディングに関する打ち合わせを綿密にする。
収録曲順も決まり、いよいよ第一セッションスタート。
ステージには、チェコ・フィルのメンバーが続々と入ってきた。
ステージいっぱいにスタンバイするチェコ・フィルの面々。何とこの日は100名を超える編成で早くも圧倒されていた。メンバーとの対面の後、本日収録予定曲である「第六章 レクイエム~呪われた力~」とメインテーマの「第一章 アシタカせっ記」演奏開始。(写真:10)
緊張の中、1曲目が始まった瞬間、今まで体感した事のない音楽の世界へ引き込まれていった。ホールの響き、チェコ・フィルの東欧独特の粘りともいえる重厚な音の演奏など、もう表現出来ない全てのものが重なりあってハーモニーしている。
凄い!凄すぎる!
その時、このアルバムは凄い事になると直感した。
指揮者のマリオさんも事前に渡した譜面をよく理解しており、オリエンタル・ミュージックを楽しんでいるようでレコーディングも快調に進み3時間があっという間に過ぎた。
その後、今日録った2曲を編集して本日は終了。

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写真10
(資料:3)
◆マリオ・クレメンス Mario Klemens
1936年東ボヘミアに生まれたチェコの指揮者。
1966年指揮者の登竜門であるブザンソン国際指揮者コンクールに優勝、その名が広く知られるようになった。
チェコのいくつかのオーケストラで活躍の後、1979年から1991年までの12年間、フィルム・シンフォニー・オーケストラの首席指揮者として活躍。
また、チェコのみならず海外の映画音楽も数多く手がけ、現代音楽も得意にしているなど、幅広く活動をしている。
第四日目 1998年6月8日(月)
レコーディング二日目。今日は、第二、第三セッションの予定。
第二セッションは、9:30より「第二章 TA・TA・RI・GAMI」「第五章 シシ神の森」の2曲をレコーディング。(写真:11)
「第二章 TA・TA・RI・GAMI」は、日本から「チャンチキ」と「締め太鼓」をこの曲の為に持参し、パーカッションのメンバーに演奏してもらった。昨日から少しリハーサルもしていたので、日本独特の楽器を楽しみながら上手にこなしていた。
それも、聴き所の一つだと思う。
「第五章 シシ神の森」は、金管・木管の音色がとても印象的でシシ神の怪しさとアレンジの心地良さが感じられて素晴しかった。
第三セッションは、13:30より「第七章 黄泉の世界~生と死のアダージョ~」「第三章 旅立ち~西へ~」の2曲をレコーディング。
「第七章 黄泉の世界~生と死のアダージョ~」は、サウンドトラックでは、曲が短くフルバージョンをと要望が多かった曲である。全体的には、オケの迫力を最も感じられる新曲といっても過言ではない凄い曲。圧巻でした。
「第三章 旅立ち~西へ~」は、とにかく約50名編成で行われたストリングスの音色に尽きる美しい曲。これまた、感激!
夕方、予定曲4曲を録り終えその後、編集もスムーズに行き久石さんもご満悦の様子で本日終了。
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写真11
第五日目 1998年6月9日(火)
レコーディング三日目。
今日は、久石さんのピアノ演奏本番。早めの8:00にホール入りしてリハーサル。
リハーサル室はドヴォルザーク・ホール内にあるコンポーザー・ルーム。(写真:12、13)歴代の著名な音楽家達が実際使用した由緒ある聖域のような場所。(写真が飾ってあり、ピアノが置いてある。シャワー、キッチンなど完備したVIPルーム。)
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写真12
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写真13 第四セッションは、9:30より「第八章 アシタカとサン」「第四章 もののけ姫」。 いよいよ、この2曲は、久石さんのピアノ演奏とチェコ・フィルのセッションが実現する。 チェコ・フィルの面々に拍手で迎えられ久石さんがピアノへ向かった。 少し緊張している様な感じもするが、音が鳴り始めるとやはり流石だ。(写真:14、15) チェコ・フィルと一体になっていった。
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写真14
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写真15 「第八章 アシタカとサン」は、映画本編では、エンディングに使用した曲のアレンジ。「第四章 もののけ姫」は、ヴォーカルではなくピアノアレンジバージョンとそれぞれ美しい音色でアルバム構成上も全体的に派手な曲が続く中で、アクセントにもなっている楽曲である。 特にこの2曲は心を暖かくさせる力が備えている楽曲だとホール内で聴いていた私は改めて感じた。 終了した時は、チェコ・フィルの皆さん、指揮者マリオさん、そして久石さんと満足感いっぱいの笑顔だった。久石さんは「ナイス、ミュージック!」と声をかけられ、スタンディングで拍手を送られ、暫く鳴り止まなかった。感激!!(写真:16) これで、全四セッション8曲レコーディング無事終了! レコーディングを通じて、ひたすら感激と驚きの連続で、改めて「もののけ姫」の凄さを感じると同時に、多くの皆さんにこの生の音を聴いてもらいたかった。 いつか日本でコンサートが実現する事を私も願っています。 午後、編集をして最終チェックも終了。 プラハ最後の夜、市内のビアホールにて打ち上げ。 やはり、チェコといえば世界一と言われるビールで乾杯! うまい!暑かった気候と安堵感で、この時のビールは格別であった。 終始リラックスムードでレコーディングの感想やプラハの印象など談笑しながら楽しい一時が続いた。
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写真16
第六日目 1998年6月10日(水)
出発と同ルートにて日本でのマスタリング作業の為、帰国。
全日程5泊7日プラハレコーディングの旅は、無事終了した。
最後に
このアルバムは、スタジオジブリ音楽関連としては初の海外レコーディングで又、「もののけ姫」では、サウンドトラック発売以来1年振りのアルバムです。
1996年「イメージアルバム」で音楽の原型にふれ、
1997年「サウンドトラック」で映画の感動を味わい、
そして1998年「交響組曲」でさらなる醍醐味を。
チェコ・フィルの演奏技術とドヴォルザーク・ホールでの迫力・臨場感が融合した新たな「もののけ姫」を存分に堪能してください。
今回も作曲・編曲・演奏そしてプロデュースと一人四役をこなした久石譲さんの「もののけ姫」に対する情熱と心がつまっている力作です。
スタッフ一同、自信を持ってお薦めできるアルバムが出来上がりました。
「もののけ姫」を大好きなすべての皆さんへ、楽しんで戴ければ幸いです。
スタジオジブリ 音響・音楽制作室 稲城 和実(1998年7月筆)
E-MAIL inaki@ghibli.co.jp
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